インパラの朝 ユーラシア・アフリカ大陸684日 中村 安希著

ラジオのヘビーリスナーだ。高校時代は下宿していて、TVは無く、本とラジオが友達だった。

ラジオ

TBS ラジオの「久米宏 ラジオなんですけど」を良く聞いている。2年前だった。とても特徴のある落ち着いた声の女性が出演していた。旅に関する本を書いたらしい。声は女性なのだけど、中性的な感じもして、どこか発声のしかたが日本人離れしていた。声にハッキリした芯のようなものがあり、どんな話しをしても、その硬い芯は決して崩れない。久米宏さんも、常人ではないので、思いもかけないところから、その著者の女性に切り込んでいく。少し動揺したりするところもあるけれど、自分のエリアは決まっていて、決して踏み込ませない感じだった。武道の達人にも似ている。それが、中村安希さんだった。著書のタイトルは、「インパラの朝 ユーラシア・アフリカ大陸684日」。

読む

そのラジオを聞いて、本の内容がとても面白そうだったので、すぐに読もうと思っていた。しかし、日々の生活の中で、記憶が薄れ、忘れていく。

ある日、あるきっかけがあって、ラジオを聞いた記憶が鮮明に蘇った。すぐに本を入手。読み始めた。

読み始めて、すぐに後悔した。なぜ、2年前に読まなかったのだろうと。

硬質な文体と、描き出される心象世界が素晴らしい。そう、あえて、心象世界と書きます。記述される内容は、とても具体的な内容ばかり。それなのに、作者の目を通したこの世界のありようが、まるで立方体の石からなにかのオブジェを掘り出すごとく、描き出されていきます。力業です。

今、この日本という国にいて認識している「世界」というもの。日本は地球上に存在するけれど、日本に居ると、日々の生活の中で実感としての地球は遠い。もちろん、「情報」としてのニュースは入ってくる。でも、それはどこまでも客観的事実として希釈され、香料を入れ、ニュースという名の飲みやすいジュースに加工されたものだ。

中村さんの本は違う。そこには、起こった事柄がそのままの形で濃縮されている。そこには、安易な解釈などは無い。もちろん、時には著者の気持ちも書かれているけれど、それすら、事実としてそう感じた、ということでしかない。それらを読んで、どう感じ、どう思うかは読者次第だ。

印象的な場面の数々

中村さんは、決して説明を省かない。だから、読者は中村さんの文章を読むことによって、まるでその場にいるがことく感じることができる。希有な性質だ。

本を読み進めると、印象的な場面に次々でくわすことになる。

だいたい、出発の時からしてすごい。そこには、リュックに詰めた荷物が羅列してあるのだが、その荷物だけで、これから行こうとしているところを想像させてしまう。

  • パキスタンで見た「手作りの武器屋」の話。
  • キルギスで出会った不思議なロシア人に授けられた「時間」を味方につける話。
  • この本のタイトルにもなっているケニアで見たインパラの美しい目。
  • アフリカを旅して分かった貧困と豊穣。

印象的で好きな文章表現もたくさんある。ひとつだけ挙げる。
「私たちはさらに長い時間を、好意的な沈黙に充て、積極的にぼんやりとした。」

中村安希さんのブログ

エピローグ

冒頭で、この本を読んだのは、あるきっかけがあったと書いた。

実は、それとは知らず、東京近郊のとある地方都市で、中村さんご本人にお会いした。友人の主催するパーティに出席した際、中村さんが同席していたのだ。不覚にもその時には、ご本人とは気づかず、帰りの電車の中で、ハッと記憶が蘇り、あの本を書いた中村さんだったのか、と、気がついた。

実際にお会いした中村さんは、とても目の綺麗な方でした。まるで、本の表紙のインパラのごとく。この本の著者を現しているという意味で素晴らしい装丁です。

今日のおすすめ

中村安希さんの「インパラの朝 ユーラシア・アフリカ大陸684日」は、旅をしてみたい人、旅をしてみたくても時間が無い人、この世界のありようを考えてみたい人、素晴らしい文章を読んでみたい人、そして、あらゆるジャンルにおいて本当に価値があるものに接したいと思っている人には、絶対におすすめです!

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